このエントリーをはてなブックマークに追加
「みなさんに拙宅までご足労願ったのは」数週間たったのち、エラリーがにこやかに言った、「あることを思いついて、ぜひとも調べてみる必要があったからなんです」  キースとアリスはぽかんとして顔を見合わせた。そして、何週間ぶりかで、身ぎれいになり、元気を取り戻して、いかにも満足そうな様子を見せていたソーンが、エラリー宅の非常に坐り心地のいい椅子にきちんと坐り直した。 「何かを思いついてもらって、嬉しいですね」ニック・キースがにっこり笑って言った、「ぼくは貧乏人だし、アリスだってその点じゃ五十歩百歩ですからね」 「きみは富というものに対して哲学的な受けとめ方をしていないな」エラリーがそっけなく言った、「ライナッハ医師の人柄のじつに魅力的な点はそこだったんだがね。なさけない巨人《コロッサス》だ! あの男は刑務所暮しが気に入っているかな……」そこで暖炉に薪を一本押しこんだ。「アリスさん、現在までに、ぼくらの共通の友人、ソーンくんが人を使ってあなたのお父さんの家をほとんど根こそぎ取り壊してしまったんですがね。それでも金貨は出てこない。だろう、ソーン?」 「出てきたのはほこりだけさ」弁護士がなさけなそうに言った。「やれやれ、我々は石を一つ一つひっぺがしてあの家を解体したのにな」 「まったくだ。となると、二つの可能性がある。なにしろぼくは度しがたいほど断言的な人間でしてね。アリスさん、お父さんの財産は存在するか、あるいは存在しないか、どちらかです。存在しないのなら、お父さんは嘘をついていたことになり、もちろんそれで一件落着で、あなたと、あなたの大事なキースくんは額を突き合わせて相談し、気高くも厳しい独立独歩の貧困に甘んじて生きるか、それともお上の生活保護の厄介になるか、いずれかに話をまとめなければなりますまい。しかし、お父さんが言われたとおり、財産があり、あの家のどこかに隠したのだとしたらどうでしょう。どういうことになりますか?」 「そうだとしたら」アリスがため息まじりに言った、「どこかに飛んでいってしまったんですわ」  エラリーは声をあげて笑った。「そうとばかりはかぎらない。いずれにしても、何かが消えてなくなるってのは、もう当分たくさんですよ。別の角度から問題に取り組んでみましょう。シルヴェスター・メイヒューの生前にはあの家にあって、今はあすこにないというものが何かありませんか?」  ソーンが目を見張った。「もしも、きみの言おうとしているのが、あの――死体のことだとしたら……」 「気味の悪いことを言いたもうな、想像力貧困もいいところだ。それに、死体は発掘して調べたじゃないか。だめだね、もう一度考えて」  アリスは膝に置いた包みにゆっくりと視線を落とした。「じゃ、今日これを持ってくるようにおっしゃったのは、そういうわけでしたのね!」 「すると」キースが叫んだ、「あの爺さんが財産は金貨だと言ったのは、わざとみんなをはぐらかすためだったっていうわけですか?」  エラリーはくすくす笑いながら、アリスから包みを受け取った。そして包みをほどくと、アリスの母親の古ぼけた大判の着色写真を、しばらく鑑賞するようにじっと見ていた。  それから、正真正銘の論理主義者らしくいかにも確信ありげに、額縁の裏板をはぎとった。  金色と緑色をした証書類が滝のようにばらばらと膝の上に落ちてきた。 「証券に換えてあったんですね」エラリーがにっこり笑って言った。「アリスさん、あなたのお父上は気違いだなんて誰が言ったんです? じつに頭のいい方じゃないですか! さあ、さあ、ソーン、そんなにじろじろのぞきこむのはやめて、この好運児たちをそっとしといてあげようじゃないか!」(完)
↓大阪弁でいうと…
「みなはんに拙宅までご足労願ったのは」数週間たったのち、エラリーがにこやかに言った、「あることを思いついて、ぜひとも調べてみる必要があったからなんや」  キースとアリスはぽかんとして顔を見合わせた。ほんで、何週間ぶりかで、身ぎれいになり、元気を取り戻して、いかにも満足そうな様子を見せとったソーンが、エラリー宅のどエライ坐り心地のええ椅子にきちんと坐り直した。 「何ぞを思いついてもろて、嬉しいやね」ニック・キースがにっこり笑って言った、「ぼくは貧乏人だし、アリスだってその点や五十歩百歩やろからね」 「きみは富ちうものに対して哲学的な受けとめ方をしておらへんな」エラリーがそっけなく言った、「ライナッハ医師の人柄のじつに魅力的な点はそこやったんやけどね。なさけへん巨人《コロッサス》だ! あの男は刑務所暮しが気に入っておるかな……」ほんで暖炉に薪を一本押しこんや。「アリスはん、現在までに、ぼくらの共通の友人、ソーンくんが人を使ってあんはんのお父はんの家をほとんど根こそぎ取り壊してしもたんやけどアンタね。それでも金貨は出てこない。やろう、ソーン?」 「出てきたのはほこりだけさ」弁護士がなさけなそうに言った。「やれやれ、うちらは石を一つ一つひっぺがしてあの家を解体したのにな」 「まるっきしや。となると、二つの可能性がある。なにしろぼくは度しがたいほど断言的な人間でしてね。アリスはん、お父はんの財産は存在するか、せやなかったら存在せんか、どちらかや。存在せんのなら、お父はんは嘘をついとったことになり、もちろんそれで一件落着で、あんはんと、あんはんの大事なキースくんは額を突き合わせて相談し、気高くも厳しい独立独歩の貧困に甘んじて生きるか、それともお上の生活保護の厄介になるか、いずれかに話をまとめなければなるんやまい。せやけどダンはん、お父はんが言われたとおり、財産があり、あの家のどこぞに隠したのだとしたらどうでっしゃろ。どういうことになりまっしゃろか?」 「そうだとしたら」アリスがため息まじりに言った、「どこぞに飛んでいってしもたんやわ」  エラリーは声をあげて笑った。「そうとばかりはかぎりまへん。いずれにしても、何ぞが消えてなくなるってのは、もう当分ようけや。別の角度から問題に取り組んでみまひょ。シルヴェスター・メイヒューの生前にはあの家にあって、今はあすこにないちうものが何ぞおまへんか?」  ソーンが目を見張った。「もしも、きみの言おうとしとるのが、あの――死体のことだとしたら……」 「気味の悪いことを言いたもうな、想像力貧困もええトコや。それに、死体は発掘して調べたやないか。だめだね、もういっぺん考えて」  アリスは膝に置いた包みにゆっくりと視線を落とした。「や、今日これを持ってくるようにおっしゃったのは、そういうわけやったのね!」 「すると」キースが叫んだ、「あの爺はんが財産は金貨だと言ったのは、わざとみんなをはぐらかすためやったっていうわけやろか?」  エラリーはくすくす笑いながら、アリスから包みを受け取った。ほんで包みをほどくと、アリスの母親の古ぼけた大判の着色写真を、ちーとの間鑑賞するようにじっと見とった。  ほんで、正真正銘の論理主義者らしくいかにも確信ありげに、額縁の裏板をはぎとった。  金色と緑色をした証書類が滝のようにばらばらと膝の上に落ちてきた。 「証券に換えてあったんやね」エラリーがにっこり笑って言った。「アリスはん、あんはんのお父上は気違いだなんてどなたはんが言ったんや? じつに頭のええ方やないやろか! さあ、さあ、ソーン、そないなにじろじろのぞきこむのはやめて、この好運児たちをそっとしといてあげようやないか!」(完)
【おもしろかったら友達とシェアしてや】
xxxxx views

© 2013-2015 yanoshin_jp and kt2m All Rights Reserved.